全ての鞄には物語がある|サンフランシスコ発・カスタムメッセンジャーバッグブランド「Rickshaw Bagworks」CEO・Mark Dwight独占インタビュー
2007年、鞄が好きでスキでたまらない情熱をもった1人の男によってサンフランシスコで産声をあげたカスタムメッセンジャーバッグブランド「Rickshaw Bagworks(リックショー バッグワークス)」。
「アメリカの製造業に新しい息吹をもたらそう」とミッションを掲げ、カスタムメッセンジャーバッグをはじめ、バックパック、タブレットカバー、ラップトップカバーなど、全商品を自社工場で丹念に作り、その人気は地元に留まることを知らず日々、世界中にリックショーの鞄が出荷されています。
近年廃墟となっていた湾岸沿いの倉庫にアーティスト、デザイナー、そして新手の起業家が住み始め、「今、地元で最もホットなエリア」へ変貌を遂げるドッグパッチと呼ばれるエリアに自社工場をかまえ、CEOを務めるのがMark Dwight(マーク・ドワイト)氏です。今回、そんなMark氏へインタビューをする機会を得ることができました。
日本ではセレクトショップの「BEAMS」が現地へ買い付けにくるほどの惚れ込みぶり。よ〜くシルエットやマークを見てみると「この鞄、見たことある!」と気付く方も多いはず。IT、アート、ヒップホップ、モノ作り、様々なカルチャーが交差するサンフランシスコを拠点にアーバンライフに溶け込むシンプルかつ、機能的なデザインを作り続けるリックショー。
差別化や付加価値が問われる時代、世界中から選ばれるリックショーがもつ他社にはない鞄作りに対する「見えない何か」に迫った独占ロングインタビュー。 Mark氏の溢れんばかりの情熱と共にお楽しみください。
1. Rickshawのブランド全容に迫る
——Rickshaw Bagworksについてご紹介をお願いします。
Mark氏:Rickshaw Bagworks(リックショー バッグワークス:以下・リックショー)は、サンフランシスコ発のカスタムメッセンジャーバッグ、バックパック、コンピュータキャリングケース、トートバッグ、ラップトップケース、タブレットケース、その他アクセサリーを製造するカバンメーカーです。
2007年の創業以来、リックショーの全ての商品は独自の縫製方法と自社の工場で1つ1つの商品を丹念に作り、サンフランシスコから世界中のお客さまの元へ商品を届けています。
まだまだ小規模な企業ですが、今では嬉しいことに30名以上の正社員と一緒に働ける規模へ成長しており、今後も皆さんに愛される鞄作りができるよう日々新商品の開発を進めています。
2. Rickshaw誕生の原点
——創業のきっかけとなる原点についてご紹介を頂けませんでしょうか。
Mark氏:リックショーを創業する前、私はサンフランシスコにある別の人気バッグメーカー「Timbuk2(ティンバックツー)」のCEOとして約4年間働いていました。
Timbuk2での勤務時代に、鞄のデザイン、製造プロセス、セールスに触れ、そして鞄のビジネスに恋に落ちました。特に誰もが自分の好きなバッグについて ” 物語 ” をもっていることに魅了されました。Timbuk2での経験を通じ、どれだけの人が自分のカバンを愛しているのか、そして自分のカバンを大切に思っているのかを肌で感じ、私のカバンに対する想いが1つ、また1つと募っていきました。
そして2006年にTimbuk2を退職後、私は自分の鞄ビジネスをスタートさせることを決意し、この日から自分自身の情熱を胸に理想の鞄ビジネスを追い求める日々が始まりました。Rickshawでは私の想い込めたカンパニーメッセージとしてこう伝えています、「全ての鞄には物語がある」と。
—— 創業時のエピソードをご紹介頂けますでしょうか。
Mark氏:実は私がTimbuk2を去る時に、私はTimbuk2と「1年間は鞄ビジネスに携わらない」という約束があった為、リックショーを創業したのはTimbuk2の退職した1年後と1日後からスタートしました。
退職から創業までの約1年間はリックショーのビジネスをスタートさせる為の準備期間に当てていました。創業後も地元サンフランシスコにはTimbuk2をはじめとしたメッセンジャーバッグブランドが多く、また地元のメッセンジャー達にも根付いているため、会社として利益を出すまでには多大な努力と時間を要しました。
3. Rickshawの由来と日本との意外な関係
—— Rickshawというネーミングは日本語の「人力車」に由来するとお聞きしていますが、なぜ人力車という言葉をチョイスされたのでしょうか?
Mark氏:” Rickshaw ”という言葉との出会いは、1998年に発行された ” Chasing Rickshaw ”という本を手にしたことがきっかけでした。実は” Rickshaw ”というネーミングは、日本で言うところの「人力タクシー」と呼ばれる『人力車(Jinrikishaw)』という言葉に由来しています。
インターネットをはじめとしたIT、ロボット、製造業などありとあらゆる産業やビジネスが急成長を遂げる今の時代、私は「ヒューマンパワー」、「ヒューマンスピード」、そして「ヒューマンスケール」というアイデアや言葉に魅了されました。
そして、私にとって『人力車』という言葉はそれらのアイデアを映す鏡のようなものと考えており、「Jinrikishaw」という言葉を参考にブランドネーミングを決め、今の “Rickshaw” が出来上がりました。
——ロゴに秘められたメッセージや隠れた想いがあればご紹介をお願いします。
Mark氏:Rickshawの ”r + dot” ロゴは、私がNYの古着屋でショッピングをしている時に見つけた1940年代の日本軍のテイラージャケットのラベルからインスピレーションを得ました。
そのロゴは様式化され、美しい小文字の ” r ” がシンボルマークとして使用されていました。そこからインスピレーションを得た私はそのロゴをベースにアクセントを与えるために ” dot ” を加え、まるでアーティストが自身のアートに押すハンコに見えるように ” r-dot ” を囲う線を引き、今のロゴをデザインしました。
4. Mark氏の師匠の存在
——Rickshawを設立するにあたり、過去のキャリアから影響を受けた人はいますか?もしいらっしゃれば、そのストーリーをシェアして頂けませんでしょうか。
Mark氏:私に影響を与えてくれた人物を1人挙げるとすると、私自身働いていたTimbuk2の創業者、Rob Honeycutt(ロブ・ハニーカット)氏との出会いですね。
日本では知っている方もそうではない方もいるでしょうが、メッセンジャー人口の多いサンフランシスコでは1990年代からTimbuk2のバッグがメッセンジャーをはじめ広く一般の方々に愛されています。
独特の地形で急勾配が多く、ストリートでバイクシェアリング(路上貸自転車サービス)も活発なサンフランシスコ近郊では自転車で移動するシーンが多いため、Timbuk2のタフなバッグが瞬く間に人気となり、ここサンフランシスコでメッセンジャーカルチャーを創り上げたブランドと表現しても過言ではありません。
彼と出会ってからを振り返ると本当に様々なストーリーがありますが、一言に凝縮すると「鞄の素晴らしさ」を彼から学びました。Timbuk2としてのキャリアは退職後に途切れましたが、私がリックショーの創業時に彼に声をかけると、創業時のリックショーに心良く手を差し伸べてくれました。今も変わらずその時の感謝は忘れていません。
5. なぜ、Rickshawは世界のメッセンジャーから熱い視線を集めているのか?
——リックショーバッグの魅力は「シンプルなデザイン」と「使い勝手を考えた機能性」だと捉えていますが、お客さまにどのような商品を届けたいという想いで商品を開発、製造されているのでしょうか。
Mark氏:リックショーは「都市生活で毎日愛用できる鞄」をコンセプトにデザインを手がけています。私たちが提供するスタイルは、「都会的でアクティブ、かつカジュアルなライフスタイル」です。
デザインにおいては、特に私たちはシンプルで機能的な鞄のデザインを心掛けているので、多すぎるポケットやジッパーのある鞄はあえてデザインしません。言うなれば ”keep it super simple” をモットーに1つ1つの鞄に心を込めて製造しています。
——Rickshawのバッグの1番こだわりはどのような点ですか?
Mark氏:リックショーはまだまだ小規模なブランドですが、私たちは人々を幸せにするために鞄をデザインすることに情熱を注いでいます。アウトソーシングが当たり前になったモノ作りの分野において、あえて私たちはそのようなことをせず、私たちの売るものは私たちの自社工場で製造をする、というスタイルを一貫して守っています。
短期的に見ればモノ作りを人件費の安い場所で行うのが良いのでしょうが、私たちはそうはしません。1つ1つの鞄をサンフランシスコの自社工場で作り、心を込めて1人1人の人々へ届けることがお客さまにとってリックショーのブランドとの関係を特別なものにする、と私たちは信じています。
—— Rickshawのバッグは世界何ヵ国へ発送されていますか?
Mark氏:世界中に届けているから、数えきれないよ!(笑)
6. Mark氏が考える「カスタマイズ」の魅力
—— Rickshawが考えるお客さまにとっての「カスタマイズの楽しさ」はどのような点だとお考えでしょうか。
Mark氏:ほとんどの消費者向け商品は大量生産された商品ですので、商品ラインナップによれば購入者からすれば限られた色やデザインしか選ぶことができません。
ですが、カスタムメッセンジャーブランドであるリックショーのバッグはお客さまの好きな色、デザイン、パターンを選びオーダーすることができますので、「本当にあなたが欲しいバッグ」を購入することができます。つまり、「ほんとうにお客さまが欲しいものを購入できる」点が魅力と言えます。
また質問があればいつでも気軽に「公式HP」から質問をしてみてください。私たちは1人1人のお客さまのパートナーになりたいと考えていますので、サンフランシスコのオフィスから皆様へお返事差し上げます。
もちろん、「カスタムオーダーが初めてなので相談に乗って欲しい」という方も大歓迎。あなたの好きなデザインをヒアリングし、リードするのも私たちの大事な役目です。そのような悩みをお持ちの方に私が決まって聞く一言目はこうです。「あなたの好きは色は何ですか?」と。
7. メッセンジャーの夜道を照らす新しいラインナップ
—— 今後の新商品の展開やラインナップの追加などがあればご紹介をお願いします。
Mark氏:私たちは常に新しい鞄や鞄のスタイル、そして新しい生地を開発しています。後に触れますが、9月に新素材の反射性ある生地を使った鞄 ”Reflective Performance Tweed Fabric” シリーズのプレスリリースがあり、新商品のリリースに非常に興奮しています。
8. Rickshawを愛するファンの存在
—— お客さまのタイプは様々だと思いますが、特にどのような方にRickshawを長く愛用してもらえる、好きになってもらえるとお考えですか?
Mark氏:この回答には色々な答えがあると思いますが、1つお答えすると私たちのバッグを愛用してくれる方々を、私たちは ” conscious consumers ” と呼んでいます。
一言で表現することは難しいですが、例えると「着る・食べる・暮らす」という日々の暮らしの中であなたを豊かな気持ちにしてくれる1つ1つの商品に対して、「どこでその商品が作れているのか」、「どのような人がその商品を作ったのか」、そして「どのようにして、その商品が作られたのか」について興味があり、敏感で、より深い部分まで知りたいと思う人々です。
そして、そのようなお客さまのために鞄をデザインし、毎日の生活で愛用して頂くことで、鞄を通じて私たちもその方々の人生の一部になりたいと願っています。
9. San Francisco Madeの魅力とメーカーの取り組みについて
—— San Francisco Made(SF Made)は歴史的にも文化的にも「土地」がブランドとして確立されているように思います。Mark氏の視点でSF Madeが持つ魅力、価値はどのようなものだと思いますか。
Mark氏:SF Madeの良さは色々ありますが、ただサンフランシスコメイドというだけではなく、ブランドや商品の背景に「どこで、誰が、どのように作ったのか」という視点を忘れないモノ作りを心がけていますので、同じ考えを持つ方々にはこの「サンフランシスコさ」はアイテムを問わず、たまらない魅力になると思います。
[補足情報]
サンフランシスコには、地元サンフランシスコのローカルメーカーが集まり、「Made in San Francisco」の良さを伝え、ローカルブランド商品の販売をサポートする「SF Made」という組織があります。
10. Mark氏からの熱いメッセージ
—— Rickshawを通して、ユーザーの皆様へ届けたいメッセージはありますか?
Mark氏:リックショーはカスタムメッセンジャーバッグのデザインを専門としたブランドです。私たちのメッセンジャーバッグは、生地の色やパターンを自由自在に1人1人のお客さまが選び、組み合わせオーダーすることが可能です。
そして、私たちはサンフランシスコの自社工場で商品を作り、1人1人のお客さまへ届けることを誇りに思っています。メッセンジャーバッグを新しく購入したいと思っている方がいらっしゃれば、ぜひ私たちの「公式HP」へ遊びにきてくださいね。
—— 今年、9月以降にイベントや新商品リリースなどの情報があればご紹介頂けませんでしょうか。
Mark氏:2014年9月9日よりクラウドファンディングサービスのKickstarter(キックスターター)を通し、新商品のリフレクティブバックパックとメッセンジャーバッグのリリースプロジェクト “The Amazing Reflective Backpack by Rickshaw Bagworks” をスタートしました。
今回、夜間の視認性を高めるために反射性能に優れた新しい生地の開発に成功し、今後はこの生地を織り込んだ新しいカスタムメッセンジャーバッグとバックパックのデザインに着手したいと考えていますので、この新しいプロジェクトにスタッフ一同興奮しています。
—— 最後に日本のユーザーへ「これだけは伝えたい!」いうメッセージを一言頂けませんでしょうか。
Mark氏:
“Fresh Bags Made Daily, Right Here In San Francisco”.
We make what we sell, in our own factory.
紹介サービス
【ブランド名】Rickshaw Bagworks(リックショーバッグワークス)
【創業】2007年〜
【公式HP】http://www.rickshawbags.com
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Special Thanks to Mark Dwight.
Interviewed by Masahiro Takahashi
2014.10.14.