ザズル 日本

2005年のサービス開始後より、いまや世界17ヵ国に展開しユーザーに愛されるオンラインカスタマイズショッピングサービスのパイオニア「Zazzle(ザズル)」。

「ザズルのオンラインサービスを使えばどんなものでもカスタマイズオーダーができる未来を創る」というミッションを掲げ、今ではTシャツ、名刺、iPhoneケースなどありあらゆる商品をザズルのウェブサイトでカスタマイズできるサービスを提供し、世界中で急速にファンの心を掴んでいます。

スタートアップの聖地、シリコンバレーで生まれたザズルのCo-Founderで現在Chief Product Officerを務めるのが、Jeff Beaver(ジェフ・ビーバー)氏です。今回、そんなJeff氏におそらく日本人初としてインタビューの機会を得ることができました。

日本でもじわじわと広まりつつあるオンラインカスタマイズサービス(*オンラインショッピングでカスタムオーダーができるサービス)。遡ること約9年前にこの未開の地を切り開いたザズルが描く未来のオンラインカスタマイズサービスの姿はどのようなものなのでしょうか?

独占インタビューで見えてきた過去のオンラインカスタマイズの苦闘、そして未来のオンラインカスタマイズショッピングの姿 、あなたの目にはどう映るでしょうか。未来のオンラインショッピングの姿、ロングインタビューでぜひお楽しみ下さい。

1. Zazzle誕生の原点

——創業のきっかけとなる原点についてご紹介を頂けませんでしょうか。

Jeff氏ザズル創業のストーリーは、私がスタンフォード大学に在学していた時代に遡ります。当時のマーケットではeBayとDellが2強の企業として市場に君臨し、eBayの持つマーケットもDellのマーケットもどちらも巨大な市場を掴んでいました。

前述の通り、2社とも巨大なマーケットのシェアを掴んでいましたが、各社のサービスに対して、そこから一歩さらに先へ踏み込んで、「顧客が一番求めているものを1から製造し提供することができれば、さらに顧客が求めているものを提供できるのではないか?」と思い立ったところが最初のスタートでした。

そして、もし「顧客が一番求めているものを提供できれば、ビジネスとしてもっとスゴいことになるんじゃないのか?」と言葉で表現できない、いわゆる肌感覚のようなものを感じていました。

2. 全てはスタンフォードから始まった

——スタンフォード大学時代の当初の取り組みはどのようなものでしたか?

Jeff氏:実際にザズルの元となるビジネスに取り組み始めたのは私がスタンフォード大学在学中で、兄のBobby、そして父のRobertと共にスタートしました。

今でこそ名刺、iPhoneケース、iPadケース、チョコレート(*現在、米国のみ販売)など何十種類もの商品をカスタマイズできるようになりましたが、原点となる一番最初の商品はカスタマイズTシャツでした

アイデアもシンプルで、アメリカでは大学名の入ったカレッジTシャツを着用する文化があり、まずは身近なTシャツからビジネスをスタートし、「将来的にはもっと様々な商品をカスタマイズできれば…」とアイデアを温めていました。

3. 世界中のデザイナーとアーティストを魅了したZazzleの「とある商品」

——原点のTシャツの後に続く2番目のカスタマイズ商品は何だったのでしょうか?

Jeff氏:非常にいい質問ですね。原点となるTシャツの次はカスタマイズできるポスターとグリーティングカードのビジネスを始めました。特にカスタマイズポスターは国際的に注目を浴び、ザズルのヒット商品となりました。

なぜかというと、当時はデスクトップのPCが一般消費者へ普及し始めた時代で、PCを初めて購入したデザイナーやアーティストが自分のグラフィックデザインやアートをデスクトップの背景にして楽しむというスタイルが流行っていました

そこへザズルのカスタマイズポスターのサービスが登場したことで、以前はPCの画面上だけでしか楽しむことのできなかった自身のデザインをポスターにプリントできる、しかも質感も画質も非常に良いものを作ることができるようになったので、デザイナーやアーティストの方の心を掴む要因となりました。そして、評判が口コミで広まり、結果的に国際的に愛される商品となりました。

4. ロゴ誕生の裏側とロゴへの想い

——Zazzleのロゴやロゴデザインに秘められた想いや隠れたメッセージがあればご紹介を頂けませんでしょうか。

Jeff氏:ザズルのロゴマークである「Z」ですが、サービス開始後〜初期のザズルのロゴは表面的でカクカクとしたデザインでした。「ロゴはその企業がおかれている段階やステージを映す」と言われるようにスタートアップ時のザズルのロゴは白黒はっきりしたデザインでしたが、一言で表現すると「どこか硬いイメージ」でした。

創業当時は社員も少ない時期が続きましたが、心の中には「いずれは大手企業のように自社のサービスやビジョンを象徴するロゴデザインにしたい」という気持ちを秘めていました。

そして、Tシャツからビジネスをスタートし、ポスターと商品ラインナップも増え、Kedsを始めとした他の企業とのコラボ企画が始まってからは、今までの「どこか硬いイメージ」のロゴを一新したいという思いが高まり、ロゴのリニューアルを決意しました。

ただ「Z」というマークを掲げるのではなく、「クラフトマンシップ」、「オーガニックメイド」、「ハンドメイド」のエッセンスを取りこみ、「ザズルはどんな商品でも製造できるマーケットプレイス」と象徴する新しいロゴへリニューアルをしました。

5. 初期メンバーしか知らない「ボツ」になったネーミング

——Zazzle(ザズル)というネーミングの由来は?

Jeff氏:創業時代の私たちは「ecod(イーコード)」という名前でした。私たちの持つアイデア「オンラインカスタマイズサービス」を象徴するよう「Electronic Custom On Demand」の頭文字をとりネーミングを決めたのですが、 実は「cod」は英語で『魚(タラ)』の意味があることに気付きました。

その後、「ecod」というネーミングはあっけなくボツになり、そこから2度と使っていません。(笑)

そして再出発で新しいネーミングを模索していたところ、CEOで父のRobert Beaver(ロバート・ビーバー)が辞書を読んでいた時に『Pizazz(ピザズ)』という言葉を見つけました。

調べたところ、この言葉には「〜をさらに良くする」、「〜をさらに魅力的にする」という意味が含まれていることをを知り、それはまさに自分たちのビジネスで実現したいこと、実現したいビジョンに沿っている!と思い、そこから名前をとりました。

創業時代からのメンバーを除いて、現在一緒に働いているスタッフは誰も知らないストーリーだと思いますが、今振り返ってもひどいネーミングでした。(笑)

Mr.Jeff02

6. Zazzleを襲った「洗剤事件」

——今振り返って、創業時(2005年〜)の最大のピンチはどのような出来事でしたか?

Jeff氏: たくさんありすぎて選べないよ!(笑)

スタートアップ時から今まで本当に色々なストーリーがありますが、最も厳しい時期はザズルの原点となるTシャツのビジネスをスタート直後に起きました。

当時、ザズルが公式サイトをリリースする直前に、アメリカで最もポピュラーな洗剤ブランドの「Tide(タイド)」が新しい洗剤を開発し、その新商品が店頭に並び始めました。

しかし、 同製品に含まれる成分があまりにも強力なため、ザズルのTシャツのインクと反応するとTシャツにプリントされたインクを落とし、結果せっかくのオリジナルTシャツのイラストが台無しになるという出来事が起きました。

私たちは「なんとか手を打ちたい!」と試行錯誤の日々が続いていましたが、当時のザズルは小規模な組織で、一方タイド側があまりにも巨大な組織だった為、何も文句を言うことができず、悔しい思いをしました。

しかも、当時のザズルはカスタマイズTシャツのビジネスで走っていこうとしていた会社だったので、タイドの一件でTシャツがダメになった時は、「会社もだめになる…」と思っていました。あれは本当に最悪な出来事でしたね。

ただし、この経験によって「不測の事態でも前身し続ける大切さ」を学ぶことができたので、振り返ってみればいいレッスンだったと思います。

——今もタイドってありますよね。…ち、ちなみにですが今もタイドはお使いですか?

Jeff氏:昔は使っていましたが、今はもう使ってないよ!(笑)

7. 創業メンバーしか知らない「ありえないミーティング」の話

——創業メンバーだけが知る「ここだけの話」をシェアして頂けませんでしょうか。

Jeff氏:そうですね、では私が経験した「ありえないビジネスミーティング」の話を紹介しましょう。

今までに様々な企業とのビジネスミーティングの機会を得ましたが、とある機会に私は映画のJACKASS(ジャッカス)のチームとビジネスミーティングの機会を得ました

そうです、あのクレイジーなメンバーたちが体を張った過激なパフォーマンスで、一般人を笑わせたり、突然ドッキリを仕掛けるMTVで人気を博したTVショーのジャッカスです。

私を含めたザズル側としては相手がとんでもないドッキリや悪さをしかけるメンバーと知っていたので、心の中ではスタンガンなどで電気ショックを受ける覚悟….でミーティングに臨みました。

そして、ザズルのマーケットプレイスでオリジナルのストアを開く魅力を伝える為にミーティングルームでプレゼンテーションを始めましたが、プレゼンの2〜3枚目を説明しようとした「その時」です。ジャッカス側のメンバーの1人がテーブルの上に置いてあった地球儀を掴み、ジャッカス側のメンバーの1人の股間に思いっきり投げつけたのです!

当然、地球儀をぶつけられた彼は、あまりの痛さにゆっくり…と地面に崩れ落ちていきました。(笑)

そこからはもうわけも分からず、お互いミーティングルームにあるものを掴み、投げ合うゲーム?が始まり、ミーティングも何もせず、そのままジャッカスとのミーティングは終わりました。(笑)

ミーティング自体は無茶苦茶でしたが、私を含めたザズルのメンバーは「馬鹿なこともできる楽しい人の集まりだ」ということを相手に理解してもらうことができ、最終的には契約に繋げることができました

今、思い返しても信じられないビジネスミーティングですが、この経験を通して「どれだけ素晴らしい商品やプラットフォームを持っているとしても、提供することができるとしても、最終的には相手にとって私たちはどのような人かを理解してもらうことが重要」だと学ぶことができました。

….もちろん、ミーティングの後半は皆股間を押さえていたことは秘密ですが。(笑)

8. 「Keds」社との初めてのパートナーシップ

——創業から今までの中でのターニングポイントは何でしたか?

Jeff氏:ザズルの歴史の中で1つ目の大きいターニングポイントは、初のパートナーシップ企業としてシューズメーカーのKeds(ケッズ*)と契約し、初めて靴のカスタマイズプロジェクトに着手したことです。

それまでのザズルの商品ラインナップはTシャツやポスター、グリーティングカード等に限られていましたが、正式なパートナーシップを結ぶことで「靴を自由自在にカスタマイズする」という非常にチャレンジングなプロジェクトが始まりました

Kedsシューズのカスタマイズプロジェクトでは、靴の色、靴ひもの色、など過去に類を見ないほど細かなところまで顧客が自由にカラーやパターンを選べるシステムの開発に成功し、それは私たちが胸に秘めていた「顧客が本当に求めているものを1から製造し、提供する」というアイデアを1つ形にできた瞬間でした。

そして、Kedsシューズのカスタマイズサービスを開始後、「自分で好きなようにKedsのシューズをデザインすることができる」というコンセプトとサービスが徐々に広まり、様々なデザイナーの方からの注目を集めることができました。

今までは自社工場で商品を作り顧客へ提供するというスタイルでしたが、Kedsとのコラボレーションを通して「ザズル以外の他社の商品でも自分の好きなようにデザインをすることができる」というスタイルを確立することができ、このプロジェクトが「ザズルが持つサービスの幅」をぐっと広めるターニングポイントとなりました。

この成功をもとに心の中では、「将来は靴以外の商品でも同じように自分の好きな色やパターンを選び、オリジナルの商品をデザインできるようにしたい」という気持ちが徐々に大きくなっていました。(*2014年現在、KedsはZazzleでのサービスを一旦休止しています)

>>>後編へ続く